ポートレート撮影ワークショップ 実施レポート ( Apr. 2018)

4月21日(土)にポートレートスクール主催のポートレート撮影ワークショップを行いました。

今回のテーマは「絵画的表現の研究」。

よく人は絵画っぽい写真を見て、「凄い、絵画みたい」と褒め、写真っぽい絵画を見て、「凄い、写真みたい」と褒めます。私は何か違和感を感じます。それって単に技法と絵面がクロスしているだけで、絵画は絵画らしく、写真は写真らしくでいいと思います。絵画であれ、写真であれ、「伝えたい事」がしっかりしているかどうかが作品の価値であり、作品の本質を見て、評価できない人が、上記の様なコメントをする傾向にあるかもしれません。

また、花を背景に所狭しと散りばめ、モデルの髪や手にも花束を入れての絵画風ポートレートというのはどうでしょうか。演出としては有りですし、完成度を高めていく為に行うのはわかりますが、ややもすると、ポートレートの本質である「人物へのアプローチ」という観点からだと、演出が先行し、被写体は誰であっても変わらない絵面になってしまう可能性もあります。

そして、「絵画っぽい写真」をネットで調べるとフォトショップでのレタッチ方法やアプリの紹介等しか出てきません。今回のワークショップでは、「絵画的表現」について、絵画と写真の歴史、役割について考え、なぜ、写真なのに、なぜ絵画的表現が必要なのかの検証も含めてワークショップを開催しました。

最初にギャラリーにて集まり、受講者が学びたい事や受講理由等をヒアリングしました。少人数制で行っていますが、それでも受講生一人づつスタンスも受講目的も異なります。それを私が掌握しておくと、各個人毎にアドバイス内容を変える事ができます。
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そして、ワークショップの進め方、講義内容や断片的な知識等を頭の中へアーカイブする為の方法について図解にて説明しました。

スタジオに入り、撮影するターゲットイメージを共有する為、「絵画っぽい写真」の特徴についてブレインストーミングを行いました。そして、絵画と写真が辿ってきた歴史や背景から、具体的な画作りを考察しました。この段階で、ある程度、作っていく画のイメージが明確になり、皆で共有しました。

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次に、レンズとレンズのF値を決めて、全体のトーンを決め、そして、ライトシェーピングツール(ストロボに装着して光のカタチをコントロールするアクセサリー)選び。求める光の特徴を作り出す為のツールについて説明しました。最初に油彩タッチの撮影を行い、ソフトボックス 1×6’にグリッドを付けて光を絞り、更にコントラストを薄める為にストリップを付けました。

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背景の壁〜被写体〜メインライトのポジショニングを行いました。背景をスタジオのタングステンとメインライトとをミックスにして、ダークブラウン(=ダークブラウン+オレンジ)にしました。空中をパレットにして、異なる色の光を混ぜる作業で、このステップはポジショニング、シャッタースピード、ストロボ光量等を微妙にコントロールする必要があります。これはアイデアがあれば、理論と経験で慣れてきます。

次にサブライト(アクセントライト)選びです。スモールスポットにGOBO(=光の遮断板)を入れ、ムラバックを作りました。これでこげ茶のムラバックが完成です。背景を光で作る技術が無ければ、カンバス地のバックグランドが必要ですが、購入すると約20万円します。しかも微妙な風合いをコントロールする事ができず、毎回、同じになってしまいます。

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テストシュートでライティングの準備ができた時点で、モデルへの世界観や作品ストーリーを行い、撮影者とモデルのイメージを共有します。今回は、油彩なので、重厚感を表現する為に、自分と向き合い、自分の人生や自分の哲学を考える様に伝えました。当然、絵画の場合は写真よりもモデルの拘束時間(=制作時間)がかかるので、動かなく、より楽で自然でオーソドックスなポーズや視線をリクエストしました。

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まず、私が撮ってみました。
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次に順番に一人づつ撮影しました。
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撮影した内容を個別にアドバイスを行いました。その場でターゲットイメージに近づける様に微調整する為です。
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別ポーズで撮影しました。光の許容範囲が狭いライティングをしている為、ポーズを変える毎にストロボの方向性や範囲を微調整しながら進めました。
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受講生同士も分からない事は協力して、ノウハウを共有していく様にしています。私、一人では個別アドバイスにも物理的、時間的な制約もあります。また、教える側は人に教える事により、自分の中で知識が整理され、新たな気付きもあるからです。教える側、教わる側にメリットがあり、そんな文化もこのワークショップでは芽生えてきました。

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続いて、水彩画タッチです。水彩画は油彩画の様に写実的表現では無く、印象派に象徴される様な筆のタッチであり、写真表現はより困難です。よって、そのエッセンスとして、柔らかく光を回し、より淡い風合いにしました。よって、メインライトは大きめのアンブレラとオクタのソフトボックスで各々を床バウンズと天井/壁バウンズにして、更に光を回してみました。衣装は油彩同様、絵面全体のイメージの統一を図る為、白にしました。こちらも上記のワークフロー同様です。

そして、一人づつ撮影しました。誰かが撮影している間の待ち時間は撮影データのパソコン画面や各々の撮った撮影データを見てのコメントや個別の質疑応答を行いました。

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私がサンプル撮影したものです。
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最後にパステル画タッチです。色が欲しいので、水彩画と同じ衣装ですが、スカーフを巻きました。そして、画の中にもパステルカラーの色を入れたターゲットイメージを設定しました。水彩画の時の様に柔らかくする為に全体を白くすると、カラージェルの色は付きません。淡い色合いを入れるには、背景はメインライトを炊いた状態で薄グレーにする必要があります(薄グレー+カラージェルの色=淡いカラージェルの色)。

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この光の調合は本当に難しいです。カラージェルのストロボの出力が小さすぎるとグレーが勝ち色が付きません。またはグレーによって燻んだ色になります。出力が高すぎると白く飛んでしまい色は付きません。その中間を探し出して行きます。更に、光の玉を表現する為、スモールスポット+オリジナルGOBOで演出して見ました。

そして、撮ったサンプル写真です。
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ワークショップでは、油彩、水彩、パステル画の3技法の風合いをターゲットとして写真表現を行いました。しかし、これらはライティングの方向性であり、マストでもオンリーでもありません。当然、画家によって作風は異なります。受講生の方々には、実際に自分で作品制作を行う際のエッセンスとして参考/活用して、自分のオリジナル作品に展開して頂ければと思います。あくまでもこのワークショップのアプローチは「飢えている人を救うには魚を与える事では無く、魚釣りの方法を伝授する」です。受講している時間が楽しいだけでは無く、受講後に自分で習得事項を展開していく事に意義があります。「軸」の気付きの場として活用して頂ければと思っています。

レッスン終了後に皆でお疲れ様集合写真を撮りました。
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ギャラリーにてサマリー(締め?)としての質疑応答や意見交換を行いました。下記、写真は光のカラーリングが難しいとの事だったので、以前に行ったワークショップ(テーマ:カラーリングポートレート)でのアウトプット写真を例に説明している様子です。

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今回は、花等の小物や、背景紙(布)も使用せずに、シンプルな白ホリゾントを背景に、光で絵画を演出する事に挑戦しました。シンプルな環境で絵画表現をすれば、作品撮りや業務撮影の中で小物や背景紙を使用して衣装やメイクのスタイリングで、より完成度の高いものを撮影していく事は可能ですが、その逆はできません。よって、シンプルな環境でライティング中心での画作りに挑戦できた事は貴重な機会となりました。

更に、「絵画的表現」に向き合えた事に意義がありました。ブログ冒頭に問題提起しましたが、「絵画っぽい写真」の本質とは何かという事に戻ります。私の解釈では、絵画は写真に比べてより長い時間をモデルと共有し、お互いに時間とエネルギーが拘束されるので、写真に比べ、より深く被写体に向き合い、被写体のフィギュアよりも本質を表現していく傾向があるのでしょう。ポートレートの原点である絵画を紐解き、被写体と向き合う事の重要性を再認識しました。よって、「絵画っぽい写真」とは技法や演出、スタイリング(衣装、背景、小物、ヘアメイクetc.)では無く、人物の本質に迫っていく事だというのが私の解釈であり、結論です。

model : Gertz (Schönberg Models)

参考:Portrait Schoolサイト内のワークショップレポート(画づくりのポイントを7つの項目毎に纏めたもの) http://portrait-school.com/report.html
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【告知】
次回のポートレート撮影ワークショップ開催予定は2018年7月21日(土)15-17:30
テーマは「影で演出するモノクロポートレート」。内容の詳細は追ってお知らせします。
尚、申し込み開始は4月25日(水)13時〜です。

ポートレートスクール サイト:http://portrait-school.com
ポートレートスクール FBページ:https://www.facebook.com/portraitschool.tokyo/

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