ポートレート撮影ワークショップ実施レポート(Oct.20)

去る10月20日(土)にポートレートスクール主催のポートレートワークショップを開催しましたので、レポートします。このワークショップは3ヶ月に1回のペースで行われており、撮影の表現力の拡充を狙いとして毎回テーマ設定して行なっています。今回のテーマは ”シンプルさを極めるポートレート” です。

“シンプルさ” は私の作風の根底にあるコアなコンセプトです。時が経っても、いつ見ても陳腐化しない、飽きない、疲れないシンプルな写真を撮影すべく心がけています。

今回のワークショップでは、”シンプルさ” と感じる写真を分析して、論理的に且つ具体的に画づくりをして行きました。よく、「私は感性で写真を撮る」という人がいますが、それは「論理的に人に説明する事が苦手です」という事の裏返しです。想いのままに撮影できる人は何らかの具体的な手段をこうじているはずです。自分がシンプルな発想をして、シンプルに撮影しようとしても、機材に自分の意を伝えて操作しなければ、シャッターを押すと誰でもが同じ写真になるはずです。いいカメラ、いいストロボであろうと無かろうと傾向は同じです。

まず、最初に “シンプルなポートレート” とはどんな写真かのターゲットを参加者と共有しようと、自分の考えを伝えました。
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そして具体的にライティング機材を使用して、ソフトボックス、アンブレラ、トランスルーセントアンブレラ・・・の違いについて参加者で意見を出し合いました。そして、1灯づつ試して検証してみました。

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特別な狙いが無い限り、白飛びがあると写真は見ていて疲れます。人間の眼で見る光景とは白飛びや黒つぶれが無く、ダイナミックレンジの広い画です。よって、グロッシー、シャイニーな写真では無く、コントラストも少なく、マットな風合いを作る事をターゲットとしました。そこで、光の広がりや機材の形状、スタジオの特徴等からアンブレラは床バウンズにして、トランスルーセントアンブレラは天井バウンズにして光の芯を作ら無いライティングにしました。

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さらに、光を回すと白ホリゾントで撮影すると背景も白くなりやすいです。モデルの衣装を薄くグレーにしました。理由は顔の色よりも明るくなると、衣装を白飛びさせない様に露出設定すると顔が暗くなります。衣装を薄グレーにして顔の色をヒストグラム上に近い輝度になる様にしました。そして、シンプルさを表現する為に衣装と背景の色を合わせる事にしました。カポックを左右に立てて、光を多少カットして、背景をグレーに落として見ました。衣装の色合いに近づける様に光のバランスを調整しました。

そして、トップライトのランタンも後ろへの光の回りをカットすべく、垂れ幕を下ろしてみました。ただ、今回のモデルは髪の毛の色が薄く、黒やダークカラーでは無いので、トップライトはさほど重要では無いです。

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これで、最初に設定したターゲットイメージに対しての具体的なライティング環境は出来上がりました。まずは全身でシャッターを切ってみました。
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今回のワークショップでは、久しぶりに基本に戻り、全身、3/4、バストアップ、クローズアップの4つの基本構図を各々に相応しい絞り値で撮影しました。

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撮影したデータはその場でパソコンで確認し、フィードバックしました。顔への影(シェード)の様子等の細部まで確認しました。
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参加者も順番に一人づつ各構図で撮影しました。

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座りポーズでも、誇張したり、主張したり、尖ったりする事ないポーズをとってもらいました。一般的に被写体が自分自身を大きく見せよう、かっこ良く見せようとコンテンツよりも表面を重視して、腰に手を当てたり、顔(特にあご周辺)に手を持って行くのは好きでは無いです。不自然で日常ではあり得ないポーズだからです。なんかモデルがとても無理をしている様で滑稽に思えます。また、よく気取って顎を上に出して、人を見下した様なポーズがクールだと思っているモデルも多く見受けます。人生において何も達成していない人が人を見下すのは幼稚だし、達成した人は人を見下しません。よって、顎を出して人を見下すというコンセプトは存在しない不自然な光景という事になります。子供や動物が無邪気にポーズを取るのと対極的です。

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視線を外すときも、極端に外すモデルがいますが、白々しく、白目の面積も多くなり絵になりません。カメラの周辺を微妙に視線を外す程度が被写体自身のコンテンツや思想を感じます。

次に衣装チェンジをしました。最初の衣装、同様に飾り気(デザイン、ファスナー、ボタン、ゴムギャザー、紐、ベルトバックル、縫い目 etc.)が無く、生地が軽めな素材、季節感を感じない物を選びました。柄が無いのがシンプルという意味では無いので、先ほど同様にボトムは柄物にしました。

 

2着目では、スピードライトでどの程度、大型スタジオライトに近い写真が撮れるかに挑戦しました。

設営は参加者の方々も参加して頂きました。もし、スタジオの床がカーペット等の素材で光が反射しない場合は、下の写真の様に床バウンズさせるストロボの床の箇所に光を反射させるシートを引きます。(このスタジオの白いグロス塗料の床なので、本来はシート不要です。説明の為に敷いてあります。)

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最初はそのままストレートに何の工夫もなくガツンと被写体めがけて左右から2灯を当てました。すると、予想通り、いかにもスピードライトで撮影した様な硬さを感じ、鼻の横に三角の影が付きます。

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今回は Profoto の A1というストロボを使用しました。従来、スピードライトはスナップ等での使用が中心で、スタジオポートレートで使用する事はありませんでした。ただ、特設スタジオであったり、スナップ後に急に人物重視のポートレート系の撮影をする機会もあり、且つ、機動力重視の出張撮影では持参できる機材も設営時間も撮影場所も限られます。この A1 というストロボはアクセントライトとしても使用できますが、メインで使用する場合を設定して撮影しました。

通常のスピードライトは文字が小さく、細かな設定がローガンな私にはキツイです。この A1は文字が大きくて直感的に操作ができます。

1着目の衣装とは異なり、少しダークな色合いです。よって、ターゲットイメージは輝度を衣装と近づけたいので、背景を先ほどよりも落とします。スピードライトは本体自体の光源も小さく、且つ、アクセサリー(モディファイアー = ライトシェーピングツール)も小さく、大型スタジオストロボ同様の光を作るには工夫が必要です。基本的には1着目のライティング同様の方針で、左右から天井と床バウンズにして、光源を最ワイドにし、ディフューザーを被せました。そして、左右は同様にカポックで光を切りました。

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ただ、ディテールを見ると気に入らない点があります。襟元の服の影が気になります。そこで、さらに光源の高さや角度、ディフィーザー等を工夫してり微調整しました。

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ただ、この写真の様に狙い通りにマットな風合いをするにはかなりのアジャストがありました。鼻横の影やグロッシーな風合いから中々脱出できませんでした。参加者の方からの提案によって、光の高さを変更して解決する事ができました。1着目の場合は薄い色の衣装なので、顔にストロボからの漏れ光を当てる事によって、服と顔の輝度が近づきます。2着目の場合は顔よりも濃い色の衣装なので、顔にストロボからの漏れ光が入ると、顔と衣装の濃淡のコントラストが出ます。よって、顔への気になるシェード解決のみならず、天井バウンズは顔よりも上、床バウンズは顔よりも下に向けて光を打つ方が、顔と衣装の輝度が近づきマットな風合いになります。

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スピードライトでもターゲットイメージは達成する事ができました。大型ストロボが無くても同じ品質の写真を撮れる様になりたいものです。

 

【11月1日追記】上記にての「マット感のあるシンプルポートレート写真」の撮り方について図解にて分かりやすくポイントを纏めました。
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最後は「お疲れ様写真」を撮影しました。色々とお世話になりました Profoto社の川田さんも私からの懇願で写真に入って頂き、シュールな写真になりました。
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ワークショップ終了後はギャラリースペースで茶話会をしました。”シンプルなポートレート写真とは” についてホワイトボードに纏めてみました。

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そして、最後のワークフローである RAW現像についてもワークショップでの撮影データをサンプルに説明をしました。

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ポートレート写真軸での意見交換や歓談も。

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私も今回のワークショップで、全体の写真の風合いのみならず、微妙な顔のパーツのシェードまでの細部に拘り、ポートレートと向き合う事ができました。

ワークショップでは考え方や技術の基本部分を伝える事はできますが、大事なのは参加者が各々の感性で、各々の作品テーマで撮影に応用して行く事です。参加者の皆様の撮影ポイントの一つになれば幸いです。自分が習得した事を解釈して自分の制作活動や業務の中で活かして頂ければと思います。

model:YULIA (aNmoda)

参考:Portrait Schoolサイト内の今回のワークショップレポート:

http://www.portrait-school.com/corner181/simple.html

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次回の撮影ワークショップは2019年1月26日(土)15:00-17:30 の予定です。テーマ及び詳細は後日に発表いたします。皆様の参加をお待ちしております。

過去のワークショップレポートのアーカイブ(画づくりのポイントを7つの項目毎に纏めたもの):
http://portrait-school.com/report.html

Portrait School の facebook page:https://www.facebook.com/portraitschool.tokyo/

Portrait School の Instagram:https://www.instagram.com/portrait.school/

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