ポートレート撮影ワークショップ(2019/7/20) 実施レポート

去る7月20日(土)に開催しましたポートレート撮影ワークショップをレポートします。このワークショップは毎回テーマを決めて、写真表現の幅を広げる事を狙いとして、実施しているワークショップです。3ヶ月に一度のペースで行なっています。少人数制で行なっている為、テーマに沿った画作りを行う留意点、ターゲットになる画の設定、具体的なライティングのプロセス、そして、モデルのスタイリング(衣装やメイク)、ポージングや表情、視線についてどの様に設定していくのかを体験できるプログラムです。

今回のテーマは ” 季節や天候を表現する ” でした。ポートレート撮影をする際、モデルや衣装が変わっても毎回、同じライティングで撮影するカメラマンがいます。また、モデルも同様でライティング、背景や設定が変わっても毎回、同じ表情やポージングで撮影に臨むモデルがいます。自分の表現フレームが限定しているからです。毎回、テーマ(=作品を通して伝えたいメッセージ、表現したい事)を設定して、ストーリーのある撮影を行いたいものです。抽象テーマで無い限り、作品には具体的な軸が存在します。今回は季節と天候という観点を持ち、具体的にどの様に表現していくかをテーマとして設定しました。(参考:過去ワークショップで1日の時間軸をテーマに行なった際のレポート: https://www.hiroyukisoda.com/wordpress/?p=6863
まず、モデル撮影をする前に習得ポイントを伝えました。1)作品にストーリー性を持たす為、季節や天候という留意点がある事に気付く事、 2)そこから思い描く画を頭に浮かべる事、3)ライティング等の大きな方向性を設定する事(幹を重視、小物や演出等の細かな枝や小枝の技術は然程重要では無く、自分で都度、オリジナル方法を考えていけばいい)。

 

最初に夏の日中の室外をイメージした際の画作りを行いました。一番最初はターゲットイメージ(目標となる画)を設定する事です。セミナー形式では無く、少人数のゼミ形式(=参加者が考え意見を出し合う)で行なっているので、皆でイメージする画について意見を出し合いました。今回は、夏のカリッとした強い光を浴びるイメージを設定しました。

具体的ステップの最初はターゲットイメージに沿ったレンズとF値を決めて全体の風合いを決定します。そして、モデルの立ち位置や光源等のポジショニングを決めます。今回は壁に影を付けたいので、モデルには影に近い位置に立ってもらいました。メインライトを決定します。メインライトを選ぶ際に参加者に考えてもらいました。そしてまずはそれで実験をしました。私が選んだのはマグナムです。マグナムは大小で然程違いはありません。グリッドの有無を実験して、違いを確認しました。グリッドを付ける方がより影の色が濃くなります。

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ライト位置や高さによる影の違いを確認しながら撮影しました。

次に、夏の暑い日の室内です。室内の場合、どの方向に窓や太陽光があるのかの仮定、設定が必要です。私はより蒸し暑さを表現する為に室外とは異なり、シフトレンズ開放を使用する事にしました。メイン光は弱めにアンブレラを使用。

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サブ光はマグナム+グリッドを左の壁スペースの上部に打ちました。窓からの光を設定してのものです。

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この不思議なボケ感が部屋の蒸し暑さを演出しています。

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シフトレンズは少し上から開放で撮影するとより演出効果が高まります。

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モデルにはポーズ指示はせずに、ストーリーを伝えるのが一番、自然でバリエーションが出ます。部屋の中のクーラーが外の暑さで効ききれていないのが表現されているでしょうか。

撮影したものをすぐにパソコン画面にて確認します。ライトの照射位置や範囲による色合い等がテーマを表現できているのかが確認のポイントです。

続いて、上記と逆で、雨天の表現です。よく、「明るい」=「柔らかい」、「暗い」=「クールでカッコいい」と思われがちです。しかし、「暗い」+「柔らかい」=「どんより」が存在します。全体の方向性としては、暗くて(ライティング面)柔らかい(レンズやF値面)画作りを行います。

今回は、いきなり結論のライティング設定では無く、プロセスを体験できる様にしました。参加者の皆様に雨や雨上がりの天候時の画についてのターゲットイメージをヒアリングしました。最初に、基本通り、レンズセレクト、F値設定、そして、モデルのポジショニングを決め、メインライトを設定。メインライトは陰影が無く、マット感を持たせ、且つ、背景と全体を落としました。そこでグレーの雰囲気にしました。ただ、単純にグレーだと芸が無いので、また、例え、曇りであろうと、微妙に薄っすらとブルー系を入れ、且つ、雲に近づける為に光にテクスチャーを付けました。「グレー」+「薄ブルー」=「くすんだ曇り空色」

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後ろの斑はGOBOではありません。説明しにくいので、割愛します。ライティングや演出の途中段階です。

レインコートを着させ、霧吹きを掛けました。

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そして、アクリ板にも水滴を。今までクールだったモデルが何故か、急に笑いこけました。水を描けるだけで、何がそんなに面白いのでしょうか。何かツボに入ったのでしょうか。

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そして、もう一工夫、秘密のシートを使って、設定を完成させました。風合いを付ける際に色々と検討しました。スモークマシン系だと狙いと違ったテクスチャーで、文字通り煙感が出てしまいます。それよりも湿度感を演出したかったので、全く違うアプローチにしました。

そして、モデルにストーリーを伝え、作品の世界観に入り込んでもらいました。参加者が順番で撮影していきました。

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さっきまで笑いこけていたモデルがカメラを向けられると、急に「曇天の女」(仮称)になりました。

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その後、多少、設定を変更して、雨上がりの蒸し暑さを表現しました。

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その場で、RAW現像のデモも行い、より、当初のターゲットイメージに近づけて行きました。

次に、秋をイメージする撮影を行いました。

秋から連想する色合い、風合いを参加者で考えました。少し、茶色系の雰囲気に持っていく事にしました。そこで、単純にカメラ側で色温度を上げるとどうなるのか。色温度のみでオレンジ感を出すと、顔まで全体的にオレンジ色になり、バーの灯火にいる様な風合いになります。そこでスタジオの環境光であるタングステン光とストロボのミックス光にしました。白壁にそのままタングステン光を混ぜるとオレンジ色になります。茶色を表現するには、「グレー」+「オレンジ」=「ブラウン」です。という事は環境光を感じる設定にする必要があります。ストロボ光とのバランスで、絵の具の様に色を空中で混ぜ合わせる感覚です。そして、より暗くしたければ、「ダークグレー」+「オレンジ」=「ダークブラウン」になり、調合します。狙いの色合いを作るには、1)ストロボ光と環境光とのバランス、2)環境光の明るさ調節、3)シャッタースピードによる環境光の感度コントロール、を考える必要があります。もし、露出をISOで調整すると、背景の色合いコントロールは出来ず、バランスは変わらず、単に明度の調整になります。この技術を修得すると写真の表現力は劇的に変わります。最初に理論、次に仮説、実験です。

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陰影を残しながら光の芯は作らず、柔らかくする為、メインは1×6の長細いソフトボックスにグリッドを付け、更にストリップマスクという中央のみのディフューザーを付けました。サブライトは陰影を和らげる為に逆から1×1+グリッドで影を起こしました。そして、モデルの髪がウェービーで柔らかく上手く光を含むことができるので、背後から髪を目掛けてグリッドのスポット光を打ちました。更に、微妙に背景にスモールスポット+オリジナルGOBOで微妙な斑を付けました。より深みのある画作りが出来ます。

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アウトプットは下です。

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センチメンタルになりがちな秋をイメージして、モデルにはストーリーを伝えました。

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より、ディープな秋(晩秋)や冬、そして春と一周する場合の風合いの変化についても意見を出し合いました。

今回は、いつものワークショップに比べ、より画作りの為のプロセスを試しながら進めていく事が出来ました。

また、いつもと違って、今回はふくちゃんも受講しました。2時間半、おとなしく見学していました。

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細かなスタイリングの演出としては、衣装以外に、メイクの色です。夏は元気なビタミンカラーであるオレンジ系、秋はブラウン系をポイントメイクに持って行きました。

また、ワークショップ終了後の机上での締めの集いでは、季節や天候以外のその他の作品制作の際の留意点とそのイメージ(色合い、風合い)について説明しました。軸はブラしたくないですよね。

「参加者の皆様、お疲れ様でした。作品制作の際のポイント、そして表現力(感性→技術)を拡充につながれば幸いです。ワークショップの内容は毎回、ハウツーや小技の演出も行いますが、留意点のヒントになる部分が大事です。よって終わってからの自分の作品制作や仕事に活かして行って頂ければと思います。世に出回っている写真や単に女性を可愛く撮る事や綺麗な写真を撮ることよりも、被写体や撮影者の思いや作品メッセージ、ストーリーのある画作りをして行きましょう。また、お会いしましょう!!」(←締めの集いで話した事ですが)

model : Nikol (aNmoda)


次回のポートレート撮影ワークショップは、2019年10月19日(土)です。

テーマを含めての詳細は近々お知らせいたします。

ポートレートスクール URL : http://www.portrait-school.com/

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